作文練習

真理を記載しています。

幸福論

ユートピア小説というジャンルがある。別に小説のジャンルに詳しくないからいつ頃流行ったとかはよく分からん。その名の通り人間たちの理想郷を描く小説なのだが、しかしそれらは往々にして国家権力等の支配によって強制的に幸せになっているだけなので、寧ろユートピアの対極であるディストピアだよね、みたいな描写をしているのが基本的かなと思う。ただ個人的にこれはこれで良いんじゃないかみたいなディストピアもあるので見ていきたい。先に断っておくと、以下に挙げる三つの小説は数年前に読んだものだしこの文章のためにわざわざ読み返すこともする気がないので、設定とか間違っているかもしれない。あと書評をしたい訳ではない。

 

"1984", George Orwell

1949年に出版された小説で、35年後の共産圏ってこんな感じになってんのかもね、的なテイストがある。小説内は徹底的な監視社会で、自宅内を含め街中のあらゆる場所に政府の監視カメラが設置されており、パノプティコン的な効果もあり常に見張られているように感じさせられる。実際反政府的な発言をしているとその人物はある日突然姿を消してしまう。加えて言語の改変による思想統制も行われており、反政府的な単語を削除したり、そもそも単語数を減らすことで思考能力の低下を狙ったりするという面白い試みが為されている。作中では常に戦争状態であり、そのためか国民の生活水準も低く、公務員である主人公ですら惨めな生活を送っている。

 

"Brave new world", Aldous Leonard Huxley

細かい設定は殆ど忘れたが、非常に面白いのは人間を人間の体外で作り出せる技術が確立されているということだ。新生児は政府の管理の下で生み出され、生まれながらにして階級分けが為されている。そしてその階級に見合った知能を持つように操作され、その階級であることに幸せを感じるように生み出されている。例えば、トップクラスの人間は管理者となるべく高い知能を有しており、下位の人間に支持を出すことに喜びを覚える。反対に底辺の人間は肉体労働者として最低限の知能のみを有し、他人から指示されて働き続けることに幸せを見出す。

 

"ハーモニー", 伊藤計劃

こちらは人間から人間が生まれる世界ではあるが、生まれた人間の健康の管理が政府によって為されている。ナノマシン的なものが体内に注入されており、体調不良などを診断してくれる。加えて精神的な不調なども察知してカウンセリングとかを勧めてくる。身体は国家の財産であり、それを意図的に損壊しようとすることはたとえ本人であっても許されない。なんやかんやあって最終的には人類全体から自我が奪われるという話になる。

 

以上三つ、どの世界に生きたいかと問われれば"Brave new world"になるだろう。次点で"ハーモニー"。というか"1984"に良いところが無さすぎる。監視社会なのを置いておいたとしても、生活水準が低く産業の成長もなく国民がその状態を幸福と考えていない*1

翻って"Brave new world"の世界では原理的に全ての人間が幸福なのだ。我々から見れば悲惨な環境で生きている人間も、それを幸せと感じるように作られている。人間が自分自身で幸福だと考えればそれは幸福だと言って差し支えないのではないか。勿論、作者はそういうつもりで書いていないのだろうとも思う。幸福を他人によって定義されて自分自身の幸福を追求する権利を奪われることは不幸である。加えて、知能を奪われているために更なる幸福を追求しようという発想すら奪われているというような考え方も出来そうだ。

ここで非常に重要なのは、これが小説の中の話であり、政府による知能操作が絶対に揺るがないという設定であるということである。私も、現実世界で客観的に見て恵まれない状況にある人間が、その生活しか知らないが故にその状態を幸せと捉えている、というような状況に出会ったら、それはあまり幸せではないのではないか、と考えてしまう。それを指摘することが当人にとっての短期的な不幸に繋がるにしても、より良い世界の存在を示すべきなのではないか。それはその人がいずれ自力でより良い世界の存在に気付き、そこにたどり着く可能性を持っているかもしれないからである。人は総て幸福な豚を脱して不幸なソクラテスへと堕ちていくべきなのだ。

 

なんか主張が矛盾し始めたからやめます。自分で幸福を望んでいるのかいないのかあやふやだったことに気づかされた。

ハーモニーはあんまり関係なかったわ。

*1:一方で"幸福である"とも考える必要があるのが"二重思考"という奴だ